初挑戦の童話「やすべぇ と ふうたん」大人バージョン
じーじの大好きな やすべえ と ふうたん のお話を聞いてくれますか。
本当はやすべえは「やすたか」、ふうたんは「ふうか」と言いますが、じーじはいつも、やすべぇ ふうたん と呼んでいますので、やすべえ ふうたんでお話を進めましょう。
5歳と3歳です。ふうたんはお兄ちゃんが大好き。いつもお兄ちゃんを追っかけて、同じことばかりしています。
二人の住んでいる山太市でガーデニングのコンテストがありました。緑の多い、豊かな都市づくりをめざしています。その運動のひとつとして、ガーデニングの広がりを期待しているからです。
多くの市民に応募を呼びかけました。
やすべぇもお母さんにすすめられて、初めてのガーデニングです。お母さんに100円ショップで鉢を買ってもらって、土いじりです。ミミズでも平気でさわる やすべえですから、おおはしゃぎです。
お兄ちゃんのすることならなんでもまねる ふうたんも もちろん一緒に土いじりです。
ふたりともちょっぴりお母さんに手伝ってもらって、良いものができました。さっそく「まちなみガーデンショウ!」に応募しました。
審査は、だれがつくったのかわからないようにして厳正にされました。二人の作品も優秀賞に選ばれました。
優秀賞の中から一人だけ、最優秀賞が選ばれます。同じ100円ショップの鉢が二つ並んでいます。審査員の一人は「この二つは兄弟だろうなぁ。お兄ちゃんを選んだときはいいけれど、弟を選んだら、お兄ちゃん ちょっとかわいそうかな」とつぶやきながら選んでいました。
そういうことがあって、最優秀賞に選ばれたのは、やすべえの作品です。
さっそく、お母さんに「入賞」の通知が届きました。
やすべえは、「やったっ!」とおおはしゃぎです。ふうたんも同じように「やったっ!」とおおはしゃぎです。
お父さんは「へぇ?」とびっくりです。日ごろは仕事ばかりしているお父さんも、表彰式には写真を撮るぞ、と はりきり、会社を休むことにしました。
優秀賞の発表もあり、ガーデンショウ!も始まりました。優秀賞の鉢には「優秀賞」のステッカーがついています。もちろん、やすべえ ふうたん の鉢には、「最優秀賞」「優秀賞」が晴れがましくついています。
表彰式が近づいてきました。賞状もすっかり準備され、いよいよ表彰式ももうすぐです。
そんなある日―。
主催者にひとりのおばさんが文句をつけに来ました。
「小さい子供に優劣を競わすのはおかしい。子供の差別だ。」という内容です。
主催者は困ってしまいました。コンテストを広く募っているし、発表もした後だし…と。でも決められたのは「表彰をすべて取りやめる」でした。
優秀賞に入ったひとり一人に、お詫びに回りました。あるお母さんは「そんなこと聞けません。」と玄関で追い返されたそうです。
また、優秀賞に選ばれていたある子は、鉢を返してもらいにきて、何も言わずに泣いてしまいました。優秀賞のステッカーがはずされていたのです。
やすべえのお母さんは、はげしく怒りました。「子供たちがはしゃいでいたのをどう説明するんですか。」と声を荒げ、主催者に食ってかかりました。でも「ごめんなさい」というだけで、何もしてくれません。
その夜、お母さんはあまりの悔しさと悲しさと、やすべえ ふうたんへの申し訳なさが入り混じって、涙がとまらず、お父さんの大きな胸の中で声をあげて泣きました。
やすべえは、どうしてお母さんが泣いているのかわかりません。
お父さんとケンカしたのかなぁ、と思いましたが、お父さんの胸で泣いているので、きっと違うと思いました。ボクがなにか悪いことをしたのかなぁ、とも思いました。
ふうたんは、いつもの「どうして。どうして。」といい続けました。そのうちに二人は寝てしまいました。
そのあとも長い間、お母さんは泣いていました。
あくる日、お母さんの目が大きく腫れ上がっていましたが、表情がちょっぴりやさしくなっていました。
そして、「あんなぁ やすたか」「あのね、 ふうか」と小さな声でいい、表彰が取りやめになったことを伝えました。
やすべえは、「なんで。どうして。」といまにも泣き出しそうになりましたが、お母さんの泣いていた理由がわかったので、悲しそうな顔をしましたが、だまってしまいました。
ふうたんは「なんで。どうして。」「なんで。どうして。」といい続けていました。
じーじは、やすべえ と ふうたんのせっかくの喜びをこわしたくないので「表彰状」をつくることにしました。立派な表彰状です。
表 彰 状
最 優 秀 賞溝川 やすたか君
平成18年度 山太市まちなみガーデンショウ!に応募されたあなたの作品は 最も優秀でしたので 記念品を贈り 之を表彰します。平成18年5月25日
山太市まちなみガーデンショウ
実行委員会
表彰委員長 速川 嘉美
同 速川 加代
表 彰 状
最 優 秀 賞溝川 ふうかさん
平成18年度 山太市まちなみガーデンショウ!に応募されたあなたの作品は 優秀でしたので 記念品を贈り 之を表彰します。平成18年5月25日
山太市まちなみガーデンショウ
実行委員会
表彰委員長 速川 嘉美
同 速川 加代
二人に表彰状が届きました。記念品は「野菜・果物の花図鑑」です。やすべえにやっと笑顔が戻りました。
ふうたんも大喜びです。
二人で「ひょうしょうじょう」の渡しっこして元気が戻りました。元気なお兄ちゃんを見て、ふうたんも元気です。
次の日です。話を聞きつけた、お父さんの会社の人から「やすたかくんの特別表彰のため、ホームパーティに招待しよう」という申し入れがありました。
また、お母さんの会社の人から、手作りの「表彰状」が届きました。記念品もついています。
その次の日も、違う人から「表彰状」が届きました。
二人は「表彰状」が届くたびに、「ひょうしょうじょう」といいあって、はしゃいでいます。
もう やすべえ も ふうたんもすっかり元気です。
お母さんだけ、まだ腹を立てています。でも、いろんな人からの「ひょうしょうじょう」に、なんともいえない喜びを感じています。
いま、じーじは腹の立ったことを忘れ、とってもうれしい気分になっています。
よかったなぁ やすべえ。
よかったなぁ ふうたん。
[後記]
最近実際にあったことに多少創作を加えて、初めて"童話"を描いてみました。お読みいただいて感謝します。
それにしても、このような子供を蝕む処理があっていいのでしょうか。今回、実行委員会のとられた処理が蔓延しようものなら、すべての書初め展、絵画コンクール、音楽コンクール、はては運動競技すべてがダメとなってしまうのではないでしょうか。
幼子が喜びを得ながら、成長していく。ちいさな「表彰状」が子供たちの目を輝かせ、健康に育っていくことも確かな事実だと思うのですが…。