早川嘉美講演録から
税理士からみた中小企業「思いの心は企業をつくる」
暗いニュースばかりですが、現状からの脱出方法として思いの心を中心に、日頃トップの方に訴えていることをお話しいたします。
「20世紀の最大の発見は、電気でも蒸気機関車でもない。それは、人間は心構えを変えることによって人生を変えることができるということがわかったことだ」と言ったのは、アメリカの心理学者ウイリアム・ジェームスです。思いの心によって人生を変える。そんな馬鹿なことはないという声が出てきそうですが、私は真実だと思っています。物事に真剣に立ち向かい、悩んで苦しんだ挙句に楽しい方を選ぶというのが、本当の意味のプラス思考なのです。
また、企業の成績の99%はトップの思いの心で決まるといわれており、京セラの稲盛和夫名誉会長はこれをよく話されているようであります。
「99人が間違っていても、トップ一人が間違っていなければ企業は繁栄する」と腹の底で信じ、信念にして経営にあたっていけばいかがでしょうか。
では、思いの心とは何か。長いスパンでみると「思いの心は人生を創る」となりますが、あまり長いスパンではなかなか理解しづらいので、これを目の前まで近づけてきます。すると「思考が肉体を支配する」という言葉になります。
今、思いを変えると、今、結果が変わる。これなら判りやすい。 力を抜き、リラックスして信念を強くしていくと、全く違った結果が出てきます。
さっそく視覚に訴えて実験してみましょう。紙で木は切れないというのは常識です。切ろうという強い思いをもってリラックスすれば、切りたいと思う箸は切れます。(名刺による割り箸切りの実演)腹の底にどんと信念を入れれば、すごいパワーが出てくるのです。
もう一つ、皆さんとご一緒に試してみましょう。利き手の人差し指と親指でオーをつくり、離れないと思ってください。そこへ反対側の手を突っ込むと、離れてしまいます。今度はくっついたと思ってください。手を突っ込んでいっても、入っていきません。つまり、離れないという否定用語は人間の意識を弱めます。それに比べて、くっついたという肯定用語は素晴らしいのです。うちの成績は悪くならないと思っていたら、残念ながら悪くなります。良くなるんだ、素晴らしい企業になるんだ、という肯定用語を使うことで、全く違ったパワーが生まれてくるのです。
中小企業を取り巻く環境といえば人・モノ・金において大企業に負けています。マスコミは、流通革命や価格破壊を良しとしていますが、それによって失業者が増えているのです。なかでも問題は銀行の貸し渋り。担保が目減りしてはどうにもなりません。土地はもっと流通しなければならないし、適正に上がっていくことこそが本当の姿だと思います。
さらに追い討ちをかけているのが、週休2日制や時短の問題です。また、後継者づくりにおいても、OA化の普及によってコミュニケーションがなくなり、深刻な軋轢が生じているのが現状です。
こんな時代になって、思い一つで経営者が変わるわけがないというのは当然かもしれません。でも、私はそうではなく、だからこそ、思いの心が大事なのだと訴えているのであります。
現在、保証協会等で社員研修を担当していますが、中小企業が保証協会や銀行の信用を得るにはどうしたらいいか。それは、トップの活き活きとした動きがまず重要なポイントになるのです。スタッフやブレーンも活き活きとして動く。これこそが今、信用を培っていく最大のポイントであり、すべては思いの心から生まれます。
次に、苦悩から脱出するにはどうしたらいいか。まずは、厳しい社会環境として使用者責任を自覚することが必要でしょう。社会的責任を問われるケースが多くなっており、繁栄すればするほど出てくる問題です。それには、社員研修を通じて基礎体力とか基礎教養を高めておく必要があります。
また、時代を動かすという気構えがなくてはなりません。新しいものだけではなく、日本古来の文化の素晴らしさを自覚し、両方をドッキングさせることです。ニューメディアがもてはやされていますが、新しい技術だけでは駄目なのです。
さらに、求められるのは、やはり発想の転換です。発想の転換とは何か。ひとつ身近な例で実験してみましょう。「いいことがあったら笑う」から「笑っているといいことがある」という実験です。(※笑いの実演)
笑うことによってこの会場のムードも一気に変わってきました。笑うことによって体が熱くなり、心身ともに充実し、トラブルがあってもそれに耐え得る力が出てくるのです。疑っても何の益もありません。実践してみることであります。
また、思いの心には二つあります。その一つは、「東へ行きたいかい。じゃあ、東に行こうと思って歩いてごらんよ、必ず東につくよ」という素直な思いの心です。もう一つは、宇宙・自然の神秘に畏敬の念を持つ気持ちです。この二つの思いがドッキングし、自分の会社が社会に対してこういう貢献をしているのだということを理念としてきちんとおさえた時には、凄いパワーが生まれてきます。
それでは、企業を繁栄させるにはどうしたらいいか。
京大霊長類研究所が行った猿の餌づけから、「百匹目の猿現象」を紹介すると、一匹の猿が芋を洗って食べた。あいつがやるならと真似して食べたのが2%、次いで10?20%。あのグループがやるなら我々もと50?80%。これがピークに達した時を臨界点と称し、そのエネルギーは、何も教えなくても波動として広がっていくというのです。
企業の中では、全ての社員を嵩上げするのは理想ですが、一気に持ち上げることは出来ません。そこで、小さなグループを充実した素晴らしいものにし、臨界点に達するような活動をさせ、他のグループに影響を与えるようにするのです。残念ながら、IT(情報技術)なんてややこしいもんはいらんという百一匹目の猿がいて、これをタコツボ人間といいますが、時々蛸壺から顔を出しては会社の中に墨をまき、また蛸壺に入っていく。こういった人が企業の中にいると組織を蝕んでいきますので、やはり排除する方向で見ていかざるを得ません。
何はともあれ、時代の流れに対応していくには、トップの自己実現が求められます。私は三つの方法があると思いますが、その一つは、難行・苦行道。自分を苛め倒した後に繁栄がくるというもので、山伏修業や座禅、金メダルの世界であります。でも、これは専門家に任す方がいいでしょう。
二つ目は易行道。南無妙法蓮華経を唱えれば極楽浄土がくるという世界ですが、つまり、ただひたすらプラス思考と唱える方法です。確かに一つの方法ではあるのですが、一旦落ち込むとなかなか立ち直りが難しい。それにやはり底が浅いように見えて仕方がありません。そこで私は「第三の道」を提唱いたします。難行、苦行ほどは難しくないが継続して実行してみませんか、という世界です。易行道ほど易しくはないが、簡単なことを継続して実行してみませんか、という世界です。
私はそれを六つの方向性で示してみたいと思います。
(※それぞれ実演で示す)
(1) 何はともあれ心身にパワーを宿すこと。
(2) パワーをつけた心身に、同時に、しなやかさをもたせること。
(3) マイナスイメージが出たとき、これをふっきる術を身につけておくこと。
(4) 行動には「脚力」が不可欠。手軽に脚力を鍛える方法を続けること。
(5) 一日に一度は心身に穏やかな“ゆらぎ”の時をもつこと。瞑想・自己催眠。
(6)自然界の神秘な法則を受け入れること。そのためには、自然界の神秘な法則をいくつか身をもって体験してみること。
企業というのは、追及して自分の思う通りに動いたら、それが企業の繁栄に役立つ世界です。これからは、活力と徳、風格を備え、苦しくてもゆったり構えられるパワーが必要ではないでしょうか。
(平成10年2月10日 社団法人清交社での講演録より/一部加筆しました)
[注]これらの第三の道の紹介は、毎月開催の「サクセス自己開発セミナー」で行っています