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中小企業問題提起 未来会計をあなたの企業に!

未来会計とは・・・

税理士界にMAS業務の必要性が言い出されて久しい。私は“MAS”という言葉はあまり好きでないので、ここは私の考える“未来会計像”を明確にするためMAS議論をしておきたい。 さて、そもそもMAS業務とはどの範囲をいうのであろうか。もし、本来の税理士業務に付随する業務全体をいうのではあまりにも範囲が広く、茫洋として掴みどころがない。

1 経営分析
2 経営アドバイザー
3 情報提供者
4 戦略,戦術アドバイザー(売上増大指導など)
5 異業種交流コーディネーター
6 社員研修,幹部研修
7 シミュレーション会計
8 IT指導(コンピューター・ISO指導)

私ども税理士がこれらをすべてこなすことは大変なことである。それでなくとも、“税法”というとほうもなく大きな“本業”があるのだから・・・。
ところで、私は一般の会計、いわゆる過去会計と未来会計に車の両輪論をとっている。未来会計を大切に考えようとするなら、それだけ歩んできた過去会計も大切に考えよと、いう訳である。
最初に私の考える未来会計像を定義しておきたい。
すなわち,シミュレーション会計を中心に据え、そこから派生するであろう幹部研修,情報提供者、もっと噛みくだいていうなら、シミュレーション会計にともなう企業の活性化、個々人の活性化のお手伝いをすることとしたい。
税理士が経営指導を行う場合,往々にして使われるのが、数字をあやつった経営分析である。いわく、

「総資本対営業利益率は同業者に比べて悪いですね」
「売上高対経常利益率は他社にくらべて低すぎるから改善すべきだ」
「一人当たり売上高は同業他社ではもっと上ですよ」
「自己資本比率が悪すぎるので改善すべきだ」

という具合である。
これらに対し、決して不必要、無視せよと言うわけではないが、大いに疑問を抱いている。
「自己資本比率が悪い。改善せよ」と何百遍アドバイスしても、「悪いのは十分承知している。儲けて解決する以外にはないから、儲ける方法を教えて欲しい」となるのがオチではなかろうか。「百の理論も一つの実績の前には無意味である」といってよいだろう。

変わることが自然の行為である

「人間は心構えを変えることによって、人生を変えることができる」は確かに真理だと思う。しかし、いかに“心構え”が大切だといっても、抽象論ばかりふりかざしていたのでは、机上論に終始して実績をあげることなど、とても覚つかない。したがって、数字面の落し込みは辛らつ、かつ具体的に進めなければいけない。
なお、私の考えるシミュレーションは,社長を含む幹部、とくに奥さんにも出席していただく。理由は、これからの中小企業の繁栄は家庭の充実,夫婦の充実なしに考えられないからで、・ ・ふりをした仲の良さではダメだと思うからである。
シミュレーションの進め方は、まず社長に一方的に次年度の計画をお尋ねし、これをすべて数字に落し込んで(この転換が私どもの手腕)、これをコンピューターに入力し、1年後の財務諸表<貸借対照表、損益計算書、資金繰り表>等の作表を行う。入力中及び演算中を利用して,リラックスできるようなプログラム、気付きを呼び起こすプログラムを準備して、発想の転換、時代の流れのキャッチなどを一緒に考えていく訳である。
「変わることが自然の行為である」これを知っておくと大いに気が楽である。

単純なものは複雑に

成功のための一つの教えに、「複雑なものは単純に、単純なものは複雑に!」の考え方があるが、私はこれに共鳴する。具体的に経営にあてはめてみると次のようになろうか。
企業利益は、あらゆる条件が複雑にからみあったところから生まれるのは論ずるまでもない。だからこそ、シンプルに考えてみる。すると三通りしかないことが判ってくる。即ち

「売上げを上げるか」
「利益率を改善するか」
「経費を下げるか」

である。
一方、売上アップのみをとらえてみれば、一見単純であり、ややもすれば、“頑張ります”“努力します”で十分の検討を加えたつもりでいるが、まったくナンセンスなことである。単純なものは複雑に、売上アップこそ、突っ込んで議論を闘わせておかなければならないはずである。
今後1年間の資金繰り、損益計算書を中心として、数字をしっかり把握したところで、売上に絞って話をすすめていく。例えば飲食店の場合、次の質問をぶつけてみる。

1 時間延長の必要性はありませんか?
2 定休日は本当に最善ですか?
3 自分の友人、知人にも声をかけていますか?
4 宴会ができることをPRしていますか?
5 入って来られた方への声のかけ方は間違っていませんか?
6 初めてのお客さんと常連のお客さんとどちらが大切ですか?
7 店内は清潔ですか?
8 茶碗類の汚れたものがでていませんか?チェックできていますか?
9 物の置き方、注文を受けるときの声のかけ方は適切ですか?
10 時々模様替えをする必要はありませんか?
11 メニューは十分ですか?

これ以外にも「価格改定を検討する余地はありませんか?」「PR活動に検討の余地はありませんか?」「直接のライバルはどこですか?」「そのライバルにどういった点で勝てますか?」などがあってもよいだろう。
あくまで素人からの提案ではあるが、ここで問題ありとされたものをこれから1年の課題として、どんどん掘り下げていく訳である。社長と社員が時間をかけて、真剣に、本気で議論を闘わせている中小企業は、はたしてどのくらいあるのだろう。労使双方が一つの土俵で、本気で一つの方向性をみつけたとき、必ず企業は繁栄に向う。この考えの正しいことは、私どもの実績が証明してくれている。

知行合一 知ったことは実行しよう

ところで、いろいろな取り決めができたとしても、それが実行に結びつくかとなると大いに疑問である。
未来会計の最も難しく、かつ最大のポイントは、いかに机上論から脱皮して、出席者の行動に結びつけるかである。この点について、私は行動科学を中心として、いろいろな情報、知恵、知識を吸収しながら、皆さんのお役に立てるよう鋭意研さんを続けている。
そうしたある日、京セラの稲盛和夫名誉会長の「経営雑感」と題する講演を拝聴する機会に恵まれた。 稲盛名誉会長は、「経営は時代が変わろうと本質は変わらない。(財テク=株の暴落=にも触れながら)どんなに激変があろうとも本質は変わらない、と私は思っています」とすべり出されたあと、経営者のための四つの条件を示された。紹介してみよう。

1 商いはゼロサムではない。すべてがハッピーでなければならない。
2 最も激しい格闘技をするぐらいの闘魂がいる。闘志のない人は経営をやってはいけない。
3 努力。人と比べる努力ではダメだ。
4 才覚。知恵。

さらに強いてあげるならもう一つ、「夢を描いて、夢に酔うべきだ」とも言われた。そして、「夢は情熱になる、ファッションにもなる」と付け加えられた後、会計人がもっとも陥りがちな点をズバリ切り捨てられたのである。
即ち、「新しい事業(新分野の開拓も含めて)には、当初は理性、計算でやってはダメです。理性、計算でやっては、必ず止めろという結果が出るだけだ。誰もやっていない事業をやるのが事業のダイゴ味だ」と言われたのである。
まさに未来会計を理性と計算から(・ ・ ・だけで)スタートしてはダメだということであり、常に私の心掛けていることであった。
では、現場ではどういう工夫をこらしているのか。これはお越しいただいたときの私どもの英知に期待していただくことにして、少し発想の転換とはどういうものかについて考えてみよう。

時代は変わった。視点を変える工夫、努力を・・・

中小企業の経営者には、本当の意味で経済情勢を掴んでいる人は、残念ながら意外と少ないのではないか。毎日、毎日の売上を近視眼的にみつめ、社員に叱咤激励しながら・・・。残念なことである。
このような経営者に、さらにガンバリズムを押し込んで、果たして真のサポートとなっているのだろうか。私はむしろその逆で、“円高を乗り切るためのコストダウン努力が、一層の円高を招いている。働けば働くほど窮乏化のワナに陥る例を数多く見ることができる”と語りかけてみる。

図

図を見ていただこう。何の変哲もない輪が五つ。この輪が右前から左へ突き抜けているか、左前から右へ突き抜けているか、という問いかけである。
右前からとか、左前からと意見が分かれるが、結局のところ自分の見たい方が見えるだけである。これから、日常における無意味な議論のバカバカしさを訴えることができるし、企業の見たい未来像は、繁栄ですか、衰退ですか、と投げかけてみたりすることもある。もちろん繁栄を取られる訳だから、では、その為に細部の検討を加えていきましょう、という訳である。
難しい議論より、この方がシンプルで判りやすい。数字と気付き、気付きと数字。こういったことを繰り返しながら、1年の目標をシミュレーションしていく。

大きな決断に!

こんなことで本当に実行に結びつくのか。まずは若い経営者の感想をご紹介してみよう。
「何か、もやもやが取れて、会社、社員の考え方なり、私に対する期待感を感じて、行動する勇気が湧いてきた」
このあと数ヵ月、同社に大きな決断が下され実行されたのを付記しておきたい。

未来会計をあなたの企業に!

随分荒っぽい未来会計のすすめであるが、企業(秘)のために具体的事例を報告できないことと、新鮮な空気に触れていただきたいために、あえて触れなかった部分も多い。
ようはこれから1年の計画を夫婦で、あるいは労使双方でゆっくり語り合うことが、いかに企業を繁栄に向かわせ、個々人を充実した生活環境にさせてくれるかを体験していただきたい訳である。倒産を許されない企業、一度しかない人生、私どもの事務所は、企業の活性化、個々人の活性化のためのニーズに自信をもってお応えすることができる。
21世紀まであとわずか。これからますます淘汰の時代に入っていく中小企業にとっては、不可欠な分野となっていくと思われるが、当事務所はそのリーダーシップを目指して、今後も研さん、努力を続けていきたい。皆さまのご利用が私どもをさらに押しあげてくれる。叱咤、激励、そしてご利用を心からお願いする次第である。

[昭和62年11月?2月 『税と経営』に連載された「未来会計で企業はどう変ったか」に加筆しました。]