平成18年5月1日施行 新会社法の重要ポイント
話題の会社法がいよいよ施行されます。この原稿が皆さんの目に触れるときには既にスタートしていることになりますが、すべての会社(株式・有限を問わない)に影響を与えることから、「そうか、そんなことになるのか」と知っていただき、情報収集の必要性を認識していただければ幸いです。
1 有限会社がなくなる?
昭和13年に有限会社の制度ができましたが、いまでは全会社数の55.7%、143万社に達していますが、この制度が廃止されます。
では、「有限会社」がなくなるのかといえば、ややこしいことに、法律上は株式会社に吸収されますが、「特例有限会社」として、そのまま「有限会社」を続けることができます。
後で述べますが、株式会社・有限会社に設けられていた最低資本金制度が廃止されます。また、有限会社→株式会社の移行には、決算期の継続や資産・負債はそのまま継承し、有限会社の解散、株式会社の設立それぞれに、登録免許税3万円を要するのみで簡単に変更することができます。
このため、有限会社は株式会社に比べ、社会的信用が低いと見られがちなことから、こぞって株式会社に移行すればよい、と思われがちですが、「ちょっと待った」という部分があります。
2 押し寄せるか? 「決算広告」の遵守
株式会社の決算公告は、これまでの「商法」はもとより、新会社法においても株式会社の義務(罰則規定あり)ですが、現実には120万社といわれる株式会社のほとんどが広告していないのが実情です。
中小企業の多くが「決算開示」をしたがらないことも事実ですが、現実的にも120万社が公告することは不可能とさえいわれていました。しかし、ITの普及はHP(ホームページ)による公告を可能にしています。さらにコンプライアンス(法令遵守)がさかんにいわれるようになっている昨今、近い将来には、中小企業といえども「決算公告」を強く迫ってくることが想定されます。
この流れに乗っかるかのように、決算公告推進協議会が会計人の手ですすめられ、その動きが加速しそうな状況です。
私はその動きに注目していますが、「わが社はどのようにいわれようと公告しません」という問題ではなく、法律にはっきり規定されているのです。まさに「正論」であり、反対するすべが見当たらないのです。いずれ「決算広告をしなければならなくなる」をふまえて、公開に耐えられる体質にしておいていただきたい、とお願いする以外にありません。
特例有限会社には、この公開に関する規定がはずされます。つまり、どうしても決算公開したくないとお考えの有限会社の方には、そのまま有限会社を続けられることがよい、ということになるのではないでしょうか。
3 取締役・監査役の任期は大幅延長
株式会社の取締役・監査役の任期は、それぞれ2年、4年と定められていましたが、これが大幅改正されました。
改正点を一まとめに図示してみましょう。
項目 | 旧商法 | 新会社法(整備法) | |||
---|---|---|---|---|---|
有限会社 | 株式会社 | 特例有限会社 | 株式会社 | ||
公開会社以外 | 公開会社 | ||||
取締訳数 | 1人以上 | 3人以上 | 1人以上 | 3人以上 | |
取締役の任期 | 無制限 | 最長2年 | 無制限 | 最長10年 | 最長2年 |
取締役会の設置 | 不可 | 必要 | 不可 | 任意 | 必要 |
代表取締役の設置 | 任意 | 必要 | 任意 | 必要 | |
監査役の設置 | 任意 | 必要 | 任意 | 必要な場合あり | 必要 |
監査役の任期 | 無制限 | 4年 | 無制限 | 最長10年 | 4年 |
会計参与の設置 | ? | 不可 | 可 | ||
社債の発行 | 不可 | 可 | 可 | ||
種類株式の発行 | 不可 | 可 | (条件付)可 | 可 | |
決算公告 | 不要 | 必要 | 不要 | 必要 |
これらのことは、すべて定款に定めなければなりません。「定款自治」といわれるゆえんで、すべての企業が自社の定款を見直さなければなりません。
取締役・監査役がともに最長10年になったからといって、面倒な業務がひとつ減り、登記費用が助かると思ってしまうのは、いかがなものでしょうか。
例えば、取締役が不祥事を犯した場合、その取締役がすんなり「辞任」をしてくれればいいですが、「辞任はしない」と居座った場合には、解任決議をしなければなりません。つまり、トラブルに発展しないとも限らないということです。こんなリスクを抱えるより、最初から任期を短縮しておいた方がよいとも考えられます。
この点も十分吟味してお決めいただきたいと思います。
4 会計参与の創設
今ほど、中小企業に決算書の公明性を求められることはありません。土地担保融資から、信用取引融資へ移っている現在、当然といえば当然でしょう。コンプライアンスが強く求められる中、企業経営者には粉飾決算によるペナルティは要求は日増しに強くなってきています。こういったことを背景に、法定監査を受けない中小企業に「会計参与」制度が設置されました。会計参与は社外取締役と同格のような立場で、取締役と共同して決算書の作成に携わります。
会計参与設置した場合には、会計参与が作成したことを明らかにするとともに、会計参与は株主総会において説明することが義務付けられます。会計参与は、公認会計士か税理士から選任します。当然、会計参与によって作成された決算書等は信憑性の高いものとして評価されることになるでしょう。
企業にとってコストが気になるところで、会計参与にとっては、証明責任が気になるところです。また、中小企業が会計参与を設置した場合、顧問税理士がそのままスライドすることが予想されますが、今まで企業にとってコンサルタント的な立場であったものが、お目付け役としての監査の立場で意見を言うことになります。果たして受け止めていただけるのか、大いに気になるところです。
こんな制度などいらない、という声も聞かれますが、制度はスタートしています。相当高額の借入金残を有している企業には、取引金融機関から会計参与の設置を求める声が高くなってくるのは必至でしょう。
その他にも大きな改正がありますので、最大の関心をもって顧問税理士にお尋ねされるようおすすめします。
(京都市ベンチャービジネスクラブ機関誌に掲載されました)