ウォルドルフ人形との出会い
早川 加代子
子供のころ人形あそびが大好きでした。紙で作った着せ替え人形や、ありあわせの布でつくった人形などで一日飽きもせずあそんでいました。お母さんごっこ、お姫様ごっこ、お店やさんごっこと空想の世界が広がりました。夏休みの工作の宿題は、いつも人形でした。
大人になってさすがに人形あそびはしなかったけれど、とおりすがりのお店で買った端布やレース、ボタン、毛糸などをいつのまにかいっぱい集めていました。今考えてみると、決して人形をわすれていなかったのでしょう。
結婚して3人のこどもを授かり、娘にはそれなりの人形を作ってあげたが、それだけのことだった。どこかで人形づくりにのめり込む自分が恐くって、ブレーキをかけていたのかもしれない。でも、やっぱり諦めきれなかったのかな・・・。
ここから先は、早川嘉美著『変身そして創造』の中から転載します。
ウォルドルフ人形
妻は子供のころから人形が大好きで、「大きくなったら自分の人形をつくりたい」と思っていたそうで、その思いは大人になってからも、結婚してからも続いていたようです。だが、その思いは表に出ることもなく本人の奥底にしまわれていました。私の方は「好きそうだな」という程度は感じたもののそれほど強いものとは知りません。
最近の妻の述懐では「とても言い出せる雰囲気じゃなかった」ということになりますが。そんな妻が「ウォルドルフ人形」と出会って、思いの心が一気に噴出しました。同好誌『ひつじ通信』に掲載された私のメッセージから、その喜ぶさまをお伝えします。
「ウォルドルフ人形 応援団からのメッセージ」
もう何年前になるだろうか。
スウェーデンからひとりの男性がお越しになった。氏は私が交流を続けるスウェーデン連珠連盟の会長、トミー・マルテルさんからのメッセージを預かってきて下さったのである。
氏はスウェーデンを訪問の折ごとに、通訳をして私どもの活動を支えてくださった方である。再会を喜びあって、しばし懇談。
その氏が「どなたか人形を創るのが好きな人はいませんか」
「どういうことですか」
「スウェーデン産まれの人形なんですが、日本で広めるために、興味を持つ人をさがしているのです」
「それなら、家内が確か好きだったと思いますヨ。直接家内に話してみて下さい」
この日は実物を持参されていなかったので、写真での対面となったが、彼女(家内)は小躍りして喜んだ。「ワァ、私の好きな人形。こんなん創りたかったん」
神の啓示にでも出あったというのだろうか。全身に電気が走り、まさにしびれたようであった。
1日も早く実物が見たいという熱望がかなえられて、氏に横浜を往復していただいて、翌日早速実物とご対面となった。このあとの彼女のはしゃぎようは、彼女を知る人なら容易に想像できるのではないだろうか。
これが、彼女のウォルドルフ人形との出会いである。
趣味はもつべき、というのが常日頃の私の主張だったから、彼女が趣味を持つことにいささかも反対する立場にない。
とはいうものの、ウォルドルフ人形に出会ってからの彼女には、少しばかり閉口した。明けても暮れてもウォルドルフ人形、ウォルドルフ人形である。私が帰宅しても、ミシンは動いているし、針を持つ手は止まらない。食事の準備も、お茶の用意も、一段落ついてからであった。峠を越すのに、1年もかかっただろうか。
でも文句はいえない。じっとガマンの子である。先に記したとおり、趣味を持つべしの提唱もあるし、毎年相互交流を続けていたスウェーデン産ということもある。さらに、スウェーデンに行くときは、同じレベルで考えられる。これは大きい。
いやいや、そんな小難しいことより、出来あがった人形がかわいい、心がなごむ。私ですら触れたくなって、なんとなく自慢したくなる。
彼女がウォルドルフ人形教室を開いてもう3年になる。(注・現在は10年)
私がスナップ写真を撮ると称して、ときどきちん入するが、人形のできていく過程をみるのは結構たのしいし、お越しになっている生徒さんを見るのが楽しいのである(これは内緒だがホンネ)。
教室にくるのが楽しくて仕方がないと、全身に喜びをあらわしているM代さん。人形創りが主なのか、家内と話をするのが主なのかわからないYさん、Eさん。制作室に入ってからしばらくすると、みなさんが素敵な、おだやかな顔になっていくのがよくわかる。
ウォルドルフ人形を応援したくなる最大の理由である。
実は、私は毎月第3土曜日ごとに「サクセス自己開発セミナー」を催しており、彼女は私のアシスタントである。心穏やかになり、めい想になるとき、彼女はウォルドルフ人形をみつめながら、自己の世界に入っていくのが見事である。そして信じがたいワザを披露してくれる。
翌日(注・現在は第4日曜日)がウォルドルフ人形教室。人形創りに私がアシスタントを務めても何の役にも立たないから、私はひたすら、出席者を拝顔するのを楽しみにしながら、応援団でありつづけることを、この機会に発表しておこう。